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広島地方裁判所 平成元年(行ウ)16号 判決 1992年9月24日

原告

伊達工

原告

安井健一

原告

朝原健次

原告

佐々木哲

右原告ら訴訟代理人弁護士

桂秀次郎

本田兆司

被告

広島中央郵便局長竹中彌壽雄

右指定代理人

大西嘉彦

中原満幸

尾崎秀人

高橋一仁

末永勝志

中本薫

河村圭二

衣川和秀

小掠定男

長瀬欣也

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告らに対して昭和六一年一〇月二七日付けでした別紙処分一覧表の処分の種類欄記載の各懲戒処分をいずれも取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告らは、昭和六一年八月三〇日当時、いずれも広島中央郵便局(以下「広島中央局」という。)に勤務していた郵政事務官である。

2  被告は、原告らに対し、いずれも昭和六一年一〇月二七日付けで、別紙処分一覧表の処分の理由欄記載の理由により、原告らをそれぞれ同表の処分の種類欄記載のとおり減給に処する旨の懲戒処分(以下「本件処分」という。)をした。

3  原告らは、本件処分が違法かつ不当であるとして人事院に審査請求をしたが、人事院は、平成元年三月二八日付けで、本件処分を承認する旨の判定をし、同判定書は、同年四月五日以降原告らに送達された。

4  しかしながら、本件処分は、違法であるから、原告らは、その取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1、2は認める。

2  同3のうち、人事院の判定書が平成元年四月五日以降原告らに送達されたことは不知、その余は認める。

3  同4は争う。

三  抗弁

1  原告らの主な経歴

(一) 原告伊達工(以下「原告伊達」という。)は、昭和三三年八月八日臨時補充員として広島県田森郵便局に採用され、昭和三八年一〇月一日郵政事務官に任命され、昭和六〇年九月三〇日広島中央局第三郵便課主任を命ぜられ、以後その官職にあったものである。

なお、原告伊達は、昭和五四年四月二八日、懲戒減給六月間俸給の月額の一〇分の一の懲戒処分(以下「減給(六月間)」のように略記する。)に付されている。

(二) 原告安井健一(以下「原告安井」という。)は、昭和三三年四月一日臨時補充員として広島郵便局に採用され、昭和三九年五月二六日郵政事務官に任命され、昭和六〇年九月三〇日広島中央局貯金課主任となり、以後その官職にあったものである。

なお、原告安井は、昭和四四年五月一〇日懲戒戒告処分に付されている。

(三) 原告朝原健次(以下「原告朝原」という。)は、昭和四四年一月一七日事務員として採用され、広島中央局集配課(昭和四五年七月二九日郵便局組織規程改正により第一集配課となる。)勤務となり、昭和四五年一〇月一日郵政事務官に任命され、以後その官職にあったものである。

なお、原告朝原は、昭和四八年四月一四日懲戒戒告処分に付されている。

(四) 原告佐々木哲(以下「原告佐々木」という。)は、昭和四一年一一月一六日臨時補充員として採用され、広島中央局通常郵便課(昭和四六年七月九日郵便局組織規程改正により普通郵便課、昭和六〇年九月三〇日同規程改正により第一郵便課となる。)勤務となり、昭和四四年一〇月一日郵政事務官に任命され、以後その官職にあったものである。

なお、原告佐々木は、昭和四八年四月一四日懲戒戒告処分、昭和五四年四月二八日懲戒減給(五月間)処分に付されている。

(五) そして、後記座り込み闘争が実施された昭和六一年八月当時、原告伊達は、全逓信労働組合(以下「全逓」という。)広島中央支部(広島中央局勤務の全逓組合員を構成員とする全逓の下部組織である。以下「広島中央支部」という。)の支部長、原告安井及び同朝原は同支部副支部長、原告佐々木は同支部書記長の役職にあったものである。

2  本件座り込み闘争に至るまでの経緯

(一) 深夜勤導入に至るまでの経緯

郵政省は、郵便物輸送のスピードアップを図るため、昭和五九年二月、従来の鉄道便中心の郵便物輸送方式から、専用自動車便中心の拠点間直行輸送方式に変更することを主たる内容とする郵便輸送システムの改善(以下「五九・二システム改善」という。)を実施した。

その結果、郵便物の流れが構造的に変化したため、郵便輸送の拠点となる広島中央局などの地域区分局においては、特に深夜帯(午後一〇時頃から翌朝午前六時頃まで)に処理すべき業務量が集中することとなり、職員の夜間勤務のウエイトが従来に比べて高くなった。そこで、郵政省は、深夜勤(午後一〇時頃から翌朝午前六時三〇分頃までの勤務)を導入し、従来の一六勤(午後四時頃から翌朝午前八時三〇分頃までの一六時間勤務)を基本としながらも、これを補完的に活用することを計画し、関係労働組合である全逓及び全日本郵政労働組合と折衝を行うこととし、昭和五九年一一月九日、全逓中央本部に対し「地域区分局における夜間作業の効率的処理について」と題する計画書を提示した。当初、深夜勤の導入に反対していた全逓との間の交渉は難航したが、郵政省と全逓中央本部が鋭意折衝を重ねた結果、交渉開始後から二年余を経過した昭和六一年一二月四日、妥結するに至り、翌昭和六二年三月一日から全国の地域区分局等で深夜勤が実施されることとなった。

(二) 広島中央支部の深夜勤に対する反対運動

(1) 広島中央支部は、昭和五九年一〇月一五日開催された第五三回支部定期委員会において、深夜勤導入に絶対反対するとの決議を行った。

(2) 同支部は、昭和六〇年三月三日開催された第五四回支部定期委員会において、深夜勤導入について郵政省が職員周知することを全逓中央本部が合意していたことに抗議し、深夜勤導入絶対反対の闘いを組織の総力を挙げて闘うことを要請するとの決議を行った。

(3) 広島中央局当局は、同年三月一一日、同支部に対して深夜勤導入の計画について業務研究会において職員に周知、説明する旨伝えたところ、同支部は、「認めるわけにはいかない。全逓本部も深夜勤反対の立場をとっている。それなのに前段で周知されるのは困る。」と述べて職員周知に反対した。

(4) 当局は、郵便関係の三課(普通郵便課、特殊郵便課及び小包郵便課)の業務研究会の席上職員へ深夜勤導入計画について周知、説明をしようとしていたところ、同支部が<1>時間外労働での周知はボイコットする、<2>配布物は返納する、<3>役員が質問する等の妨害戦術を決めたとの情報を得たので、同月一四日、同支部支部長である原告伊達に対し、職員周知を行うので妨害しないよう警告した。

(5) 右警告にもかかわらず、同月一八日及び一九日、同局普通郵便課の業務研究会において、同支部役員らが職員周知を妨害したため、同支部書記長である原告佐々木に対して厳重警告した。

(6) 当局は、同支部所属の一部職員が同年七月九日から連日制服を着用せず、「深夜勤をぶっとばせ!」等と記載したTシャツを着用して勤務し始めたので、原告伊達に対し、このようなTシャツの着用行動は、勤務時間中の組合活動に該当し、服務規律に反するので着用しないよう警告した。

その後、制服を着用するようになったものの、制服の下に同Tシャツを着用する行動をとり、これは、当局が同月二三日及び同月三〇日の両日、原告伊達に対して厳重警告等し、同年八月三一日に着用行動を中止するまで続いた。

(三) 本件座り込み闘争の計画に対する当局側の注意、警告等について

(1) 原告佐々木が昭和六一年八月二〇日、広島中央局庶務課主事梅田裕民に対し「八月三〇日、九月一日、同月二日のいずれかの日に深夜勤導入阻止の座り込みを局前で行うことにしている。」と述べたので、同局庶務課長高橋親治は、八月二五日、同局次長室において、原告佐々木に八月三〇日に局前座り込みを計画していることを確認した上、同原告に対し座り込みは、庁舎管理上からも認められないとして口頭で中止を求めた。

(2) 同月二七日、同局次長手塚守(以下「手塚次長」という。)は、同局次長室において広島中央支部三役である原告ら四名に対し、深夜勤導入反対座り込み行動の中止方を厳重に警告したところ、原告伊達は、「やめる気はない。」と答えた。

(3) 当局は、同支部が局前座り込みを強行することが明らかとなったので、同月二八日から同月三〇日までの間に同局職員に対して各課長又は副課長を通じて朝礼、夕礼(午礼)の中で、違法行為には参加しないよう警告、注意した。

(4) 手塚次長は、同月二九日、同局次長室において原告朝原に対し、庁舎敷地内での座り込みは、認められないので中止すること等を記載した申入書を手交した。

3  本件座り込み闘争と当局の対処

同月三〇日、同支部は、同局構内の南側お客様周知用掲示板付近において、同支部三役らの指導の下に、午前九時頃から午後五時四〇分頃までの全一日にわたり、多数の同局職員ら(総参加人員約一二〇名。なお、本件座り込み闘争には、広島中央局職員である広島中央支部組合員のほかに、広島東郵便局あるいは安芸府中郵便局職員である全逓広島東支部組合員も参加していた。)が参加して座り込み闘争を実施した。

本件座り込み闘争において、全逓組合員は、「深夜勤導入阻止」、「深夜勤をぶっとばせ」等と記載されたゼッケンを着用して同局庁舎を背にして座り込み、座り込み開始前頃に庁舎敷地内の前記掲示板前に「深夜勤導入絶対反対全逓広島中央支部」と記載された横断幕及び同横断幕の両端付近に同支部及び全逓広島東支部の全逓旗が掲出された。また、広島中央支部執行委員らは、同局庁舎前歩道において「市民のみなさんに訴えます」と題するビラを通行人に配布した。

そして、手塚次長が午前九時二五分頃原告伊達に退去命令書を手交し、青木局長が午前一一時一二分頃同原告に横断幕と全逓旗の撤去命令書を手交し、文書により解散、退去、撤去を命じたほか、同局管理者が終日にわたり口頭で解散、退去、撤去を命じたが、原告らは、右命令に従わなかった。

4  原告らの非違行為

原告らは、前記のとおり、昭和六一年八月当時、広島中央支部の三役の役職にあったものであるが、共謀の上、本件座り込み闘争を企画(同闘争を計画し、実施に導くこと)し、同月三〇日、広島中央局管理者の事前の警告及び当日の再三の解散命令等を無視して、多数の同局職員たる同支部組合員らを指導(本件座り込み闘争実施に当たり、指示、指導等をすること)して、長時間にわたって座り込み闘争を実施する等したものである。

原告らの座り込み当日の具体的指導行為等の態様は、次のとおりである。

(一) 原告伊達について

(1) 午前九時一分頃、同局構内に集合している本件座り込み参加者に対して「準備ができたら順次座ってくれ。」と指示した。

(2) 午前九時一二分頃、同局構内に集合している本件座り込み参加者に対し、座り込み闘争の決定の経緯等について説明し、当局の挑発に乗らないよう指示した。

(3) 午前九時二四分頃、「それでは今から座り込みに入ります。」と組合員を指導した。

(4) 午前一〇時三二分頃、座り込み参加者に対して「きちんとした抗議行動をとってもらいたい。」と指示した。

(5) 午後三時三一分頃、座り込み参加者に対して「深夜勤導入反対については、五九・二アフターフォローの問題も含めて闘うことを誓い合いたい。」等とあいさつした。

(6) 午後四時三七分頃、座り込み参加者に対して「最後まで整然と座り込みを続行していきましょう。」とあいさつした。

(7) 午後五時三五分頃、座り込み参加者に対して「今回の座り込みは大成功であった。」等と総括のあいさつをした。

(8) 前記のとおり、同局管理者の再三にわたる解散命令、撤去命令及び退去命令に全く従わなかった。

(二) 原告安井について

(1) 午後五時三九分頃、座り込み参加者に対して「団結ガンバローを行いますので唱和願います。」と呼び掛け、「団結ガンバロー」と大声で音頭を取り、これを組合員らに三回繰り返し唱和させた。

(2) 前記のとおり、同局管理者の退去命令に全く従わなかった。

(三) 原告朝原について

(1) 午前九時二分頃、同局構内に集合している同局職員たる同支部組合員らに「できるだけつめて座ってくれ。」と指示した。

(2) 午前九時二三分頃、座り込み参加者に対して大声で「団結用意」、「深夜勤導入阻止のため一致団結してガンバロー」と音頭を取り、これを同支部組合員らに三回繰り返し唱和させた。

(3) 午後〇時一七分頃、座り込み参加者に対して「深夜勤導入反対のため団結ガンバロー」と大声で音頭を取り、これを同支部組合員らに三回繰り返し唱和させた。また、引き続き、座り込み参加者に対して「ゼッケンを着けて座ってください。」と指示した。

(4) 前記のとおり、同局管理者の再三にわたる解散命令、撤去命令及び退去命令に全く従わなかった。

(四) 原告佐々木について

(1) 午前九時一〇分頃、座り込み参加者に対して「皆さんに協力してもらい、何としても深夜勤反対を貫きたいと思いますのでよろしくお願いします。」と指示した。

(2) 午前九時二三分頃、座り込み参加者に対して「団結ガンバローを行いますので立ってください。」と指示した。

(3) 午前一〇時三二分頃、原告伊達が座り込みの経過について説明する旨同支部組合員らに紹介した。

(4) 午後〇時一三分頃、座り込みを継続するので残ってもらいたい旨発言し、原告朝原の音頭で深夜勤反対ガンバローを行う旨指示した。

(5) 午後三時三〇分頃、一六勤者の座り込みを終わるように指示し、原告伊達があいさつするのを同支部組合員らに紹介した。

(6) 午後四時三五分頃、座り込み参加者に対して、座り込みの実施状況等を説明した。

(7) 午後五時二九分頃、総括集会を行う旨の発言をし、座り込み闘争を実施した経緯、目的等について説明した後、原告伊達があいさつするのを同支部組合員らに紹介した。

(8) 午後五時三八分頃、原告安井の音頭で団結ガンバローを行うことを同支部組合員らに指示した。

(9) 前記のとおり、同局管理者の再三にわたる解散命令及び退去命令に全く従わなかった。

5  本件座り込み闘争の違法性

郵政省は、庁舎等の適正な管理を行うことを目的として郵政省庁舎管理規程(以下「庁舎管理規程」という。)を定めているが、同規程によれば、郵便局の庁舎等の目的外使用については、庁舎管理者である郵便局長の許可を要し、郵便局長は、庁舎等において座り込み等の行為をし又はしようとする者等に対し中止又は退去を命じ、庁舎等に搬入された旗等の撤去を命ずるものと規定されており、職員は、郵政省就業規則(以下「就業規則」という。)一三条及び庁舎管理規程三条に基づきこれらの命令に従わなければならない。

被告は、本件座り込み闘争に庁舎等の使用を許可しないこととし、事前にその中止を求めるとともに、同局庁舎構内の使用を許可しない旨通告したにもかかわらず、原告らは、これを無視して、同局構内で実施したものである。のみならず、原告らは、座り込み実施中においても当局から再三にわたり、中止、解散、退去あるいは横断幕の撤去を命じられたにもかかわらずこれを無視して本件座り込み闘争を行ったものである。

したがって、原告らの行為は、庁舎管理規程に違反し、被告の庁舎管理権を侵す違法な行為である。同時に、本件座り込み闘争が職場の秩序を著しく乱し、官職の信用を傷つけ、官職全体の名誉を傷つけたことは明らかである。

6  法律の適用関係

原告らは、いずれも前記のとおり広島中央局構内において深夜勤反対を唱えて違法な座り込み闘争を実施することを企画した上、同局構内において、青木局長を始めとする同局管理者が、庁舎管理規程一一条七号(横断幕、全逓旗の掲出、携帯マイクの使用が該当)、九号(シュプレヒコール、携帯マイクを使用した指導、経過報告、あいさつ等が該当)、一〇号(庁舎等における座り込みその他通行の妨害になる行為が該当)及び一三号(郵便事業への不信感、郵便局のイメージダウンが該当)並びに一二条一項四号及び五号(横断幕、全逓旗の撤去命令が該当)に基づいて発した解散命令、撤去命令及び退去命令を無視して、敢えて本件座り込み闘争を指導して強行実施したものである。

原告らの右行為は、就業規則一三条七号、九号及び庁舎管理規程三条に抵触するものであることはもとより、国の経営に係る郵政事業に従事する職員としての官職の信用を傷つけ、官職全体の不名誉になる行為というべく、国家公務員法九九条(信用失墜行為の禁止)に違反し、同法八二条一号及び三号に該当する。

7  結論

よって、本件処分には、何ら違法の点はなく、適法である。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1は認める。

2(一)  同2の(一)は認める。

(二)  同2の(二)の(1)ないし(3)は認める。同(4)のうち、当局が業務研究会で職員に周知、説明しようとしていたところ、広島中央支部が妨害戦術を決めたとの情報を得たことは不知、その余は認める。同(5)のうち、同支部役員らが職員周知を妨害したことは否認し、その余は認める。同(6)は認める。

(三)  同2の(三)は認める。

3  同3のうち、総参加人員数及び横断幕の撤去命令に従わなかったことは否認し、その余は認める。参加者は一五一名であり、横断幕は、午前一〇時四五分頃座り込み参加者の前面の公道上に移動させた。

4(一)  同4の冒頭の事実のうち、原告らが共謀の上、本件座り込み闘争を企画、指導したことは否認し、その余は認める。

指導行為として被告が挙げている経過の説明、あいさつ、ガンバローの音頭等は、座り込みの指導とは直接関係がない。座り込みの指導とは、あくまで座り込むことを直接促すことであり、既に座り込んでいる者に対して単に言葉を発するだけでは、問題とされるべきではない。

(二)  同4の(一)ないし(四)はおおむね認めるが、時刻や発言内容の詳細については不知。

5  同5ないし7は争う。

解散命令については、庁舎管理規程においても明文の規定がなく、その根拠が明白でない。

また、庁舎管理規程は、庁舎内のすべての座り込みを禁止するものではなく、同規程によれば「庁舎等における秩序維持等に支障がないと認める場合は、この限りでない」と定められているのに、被告は、どういう理由であろうと座り込みは認められないという誤った認識のもとに退去命令を発しているのであって、違法である。

そして、原告らは、最初の撤去命令が出された直後の午前一〇時四五分には横断幕を座り込みの前方公道上に移動させていたのに、被告は、この点を十分に確認せず、その後も再三にわたり横断幕の撤去命令を発しているのであって、違法である。したがって、横断幕の撤去命令に従わなかったとの点は、処分事由に該当しない。

五  再抗弁

1  五九・二システム改善

深夜勤問題の発端は、昭和五九年二月一日から実施された郵便の輸送、区分システムの改変を内容とする五九・二システム改善であるが、次に述べるとおり、このシステム改善自体に問題点があるばかりでなく、その導入は、システムの拠点となった地域区分局の労働条件を急速に悪化させるものであった。

(一) 五九・二システム改善の問題点

(1) 輸送時間の問題

五九・二システム改善は、国鉄の民営分割化に便乗し、鉄道郵便局を廃止することを目的としたものであって、鉄道輸送から専用自動車便による輸送への変更に伴い、一部遠距離拠点間については、若干の輸送時間の短縮がみられたが、その他特に近隣府県では鉄道便の方が相当時間的には速い。

(2) 拠点間輸送、二けた区分の問題点

五九・二システム改善による拠点間輸送、二けた(郵便番号の上から二けた)区分の導入により、各県境あるいは二けた区分の境界線で郵便番号を異にする郵便物は、従来より大幅な送達時間を要する結果となり、県内であるにもかかわらず翌日配達不可能な地域が生じたり、輸送が一日遅れとなるケースが多いのであって、従来の区分方法の方がベターである。

拠点間輸送あるいは二けた区分は、主要都市間の郵便物の配達に重点を置いたものであり、過疎地域間の郵便物が遅れるという結果となり、郵便法一条の「あまねく公平に・・・」の規定にも抵触しかねない。

(3) 配達一度化の問題点

五九・二システム改善と同時に実施された普通郵便の配達一度化(従来は午前、午後の二回であった。)及び速達郵便の配達度数減(五便から三便に減少)は、サービスの大幅な低下をもたらした。

一方、一定の基準(二〇〇〇通以上、一事業所一〇〇通以上)を充たす商業地域に限って、二度配達を行っている。これも、「あまねく公平」という郵便法一条の精神に反する。

(二) 労働条件の悪化

五九・二システム改善に伴って区分、輸送の拠点として新たに指定された全国八〇余の地域区分局において労働条件が急速に悪化した。例えば、地域区分局である広島中央局の場合、内務において、四〇パーセントに及ぶ夜間帯の作業量の増加に伴い夜間労働が飛躍的に増大した。また、外務においては、前記配達一度化との関係で、集配労働者の一日の勤務時間が延長(約四〇分)されたほか、通配区(普通郵便)と混合区(速達郵便)の合計が二〇区減となり、定員も五名減り、その結果、一人の受持範囲が拡大した等のため、超過勤務が常態化するなど労働強化を招いている。

また、郵便の翌日配達をめざす五九・二システム改善による夜間集中作業、集中輸送が職場の安全を大きく低下させている。すなわち、昭和六一年二月に阪広下便(大阪広島間)で過積載が原因のパンク横転事故が発生したほか、過積載により道路交通法違反として数多く検挙されている。また、昭和六二年八月、郵便物運送ケース(パレット)への郵便物の積過ぎが原因で、広島中央局第三郵便課主事がパレットの車輪にひかれ、右足親指を骨折するという事故が起きたほか、パレットによる人身事故が急増している。

2  深夜勤の問題点

ところが、郵政省は、五九・二システム改善により増大した深夜帯の業務量に対処するための効率的な要員配置を理由に深夜勤の導入を提案してきたが、深夜勤は、次に述べるように苛酷な労働であって、五九・二システム改善によって悪化した地域区分局における労働条件を更に大幅に悪化させるものである。

深夜勤の問題点は、以下のとおりである。

(一) 夜勤一般における医学上及び生活上の問題点

(1) 人間には二四時間を周期としたリズム(生体リズム、サーカディアンリズム)があり、そのリズムは、昼間活動し、夜間は眠ることに適したリズムである。ところが、夜勤は、昼夜が逆転するため生体リズムを狂わせてしまうが、夜勤を長期間続けても生体リズムの逆転現象は起こらない。

したがって、夜勤は、人体の内部が睡眠(休養)に適している時間帯に活動するという意味で反生理的である。また、昼眠は、人体の内部が活動に適している時間帯に眠るという意味で反生理的であり、睡眠の質、量ともに不十分である。

(2) 夜勤による健康障害

生体リズムに反する夜勤自体の負荷と昼眠における休養の不十分性により、夜勤労働者には、消化器疾患を中心とする様々な健康障害が発生している。

(3) 家庭生活、社会生活に与える影響

夜勤では、昼夜逆転した生活となるため、家庭生活、社会生活に対する様々な悪影響が生ずる。

(4) 夜勤の勤務条件の改善の方向

夜勤は、このように多くの労働衛生学的問題点及び生活上の問題点を抱えているので、公共サービスないし生産技術上の理由から不可避な場合を除き、禁止されるべきである。特に、経営効率などに関連した経済的理由による夜勤の導入は禁止されるべきである。また、夜勤が必要な場合も毎回一晩のみにとどめ、夜勤の連続は避けるべきである。

さらに、夜勤を実施する場合、生体リズムの乱れを最小限にとどめ、有効な疲労対策を講ずる上からも、勤務時間内に少なくとも二、三時間の仮眠時間を付与するべきである。その他、仮眠施設、食事、健康診断等の問題も十分配慮されなければならない。

(二) 深夜勤の実態と一六勤との比較

(1) 仮眠時間

深夜勤には、夜勤に不可欠の仮眠時間が設けられていない。

一六勤の場合、約三時間の仮眠時間が設けてあり、この時間に夜食、歯磨き、シャワー、入浴等をした後、仮眠室で寝るのが一般的であって、実際に二時間強の仮眠をすることができる。しかし、深夜勤の場合、一六勤の場合のような仮眠時間はない。

この仮眠時間の有無は、疲労度に大きく影響する。仮眠時間のある一六勤では、仮眠までのだるさや眠たさも二時間強(実質仮眠時間)寝ることである程度回復させることができるし、一六勤明けの疲労度もかなり軽減される。それに対し、仮眠時間のない深夜勤では、疲労回復させるような長時間の休み時間はなく、だるさや眠たさは勤務終了まで累積、持続する。

なお、広島中央局第二郵便課、第三郵便課では、休憩、休息時間をまとめて取り、一時間四五分を一応仮眠時間にしているが、この程度の時間では、到底十分とはいえない。

(2) 深夜勤の指定方法の問題点

一六勤は、暦日二日間の勤務であるのに対して、深夜勤は、一日勤務とされている。したがって、一六勤の場合、連続指定されても、二回目の一六勤に入るのは一回目が明けた日の夕方ではなく、翌日の夕方であり、一六勤明けは、夜自宅でゆっくり寝ることができる。

一方、深夜勤の場合は、朝六時三四分に仕事を終え、引き続いて当日の夜一〇時には二日目の深夜勤に就かなければならず、必然的に一日目と二日目の間の昼間に睡眠をとらなければならないが、昼間の睡眠は、これを妨げる要因(騒音、来客、電話)が多く、質的にも十分疲労を回復できる睡眠とはならない。

深夜勤の連続指定の弊害を避けるため、一勤務指定(四週間)中の二回の深夜勤を切り離して指定すると(広島中央局では、当初、深夜勤の連続指定が行われていたが、現在は、分割指定となっている。)、深夜勤明けには、非番日が指定されるので、各深夜勤明けの日は自由となり、夜も自宅で寝ることができるようになる。しかし、深夜勤を切り離すことによって、二回の深夜勤明けの日に二日の非番日が指定されることになる。現在一勤務指定に三日間の非番日があるが、その内二日間も深夜勤明けの非番日として眠るためにつぶさなければならない。このことは、深夜勤がいかにきつく過酷な勤務であるかを示しており、また、休日拡大の趣旨で行っている非番日をこのように使うのは、労働者福祉、労働時間短縮の観点からも大きな問題である。

(3) 深夜勤の実態

広島中央支部が昭和六二年五月に行った深夜勤の実態アンケート調査等によると、深夜勤を現実に体験した者の実感として、深夜勤明けの疲労度が著しいほか、深夜勤明けの睡眠のため家族が気を使ったり、疲労のため深夜勤明けの日の子供の学校行事への参加に支障を来すなど、深夜勤導入が家庭生活や社会生活に深刻な影響を与えていることが明らかとなっている。

(三) 深夜勤導入の必要性

昭和六一年一〇月に郵便物輸送を全部自動車便で行ういわゆる六一・一〇輸送合理化が実施され、五箇月の期間を置いて翌昭和六二年三月一日から深夜勤が導入されたが、この五箇月間、深夜勤がなくても、業務は、正常に運行されていた。ところが、深夜勤導入に伴い、一六勤の配置を減員し、深夜勤としたため、深夜勤帯の配置人数は、以前と同じで(広島中央局全体で一六勤を二四名減とし、深夜勤を二四名配置とした。)、深夜勤前後の時間帯の配置人員を減少したことになり、深夜勤の導入は、深夜勤前後の作業密度を高めただけであって、要員の効率的配置にはなっていない。

右のように、深夜勤導入は、業務上必要不可欠のものではなく、反対に深夜勤の前後の時間帯の一六勤の配置が大幅に減少したため、一層の労働強化になり、また業務運行上の支障にもなっている。

(四) 深夜勤体制の強化とその真の狙い

深夜勤の回数は、一勤務指定(四週間)で当面二回とされているが、郵政省は、将来的に深夜勤を中心とした夜勤回数の増加と一六勤体制から深夜勤体制への移行を目論んでおり、深夜勤体制は、早出、夜勤、深夜勤という三交替制の勤務体系の確立を狙ったものである。

そして、郵政省は、一六勤の代わりに仮眠時間のない深夜勤を導入することで効率化を図ることにより、人員削減が可能であるとして、昭和六一年一一月深夜勤の導入に伴う定員減を提示した。また、深夜勤の導入は、勤務条件が厳しくなることにより、病弱者等が働ける職場を狭くしていくことにもなる。

このように、郵政省が服務合理化の柱として強行している深夜勤は、労働条件の低下をもたらすことはもちろん、首切り合理化、職場の縮小をも展望したものであって、雇用と労働条件を守ることを使命とする労働組合としては、到底容認することができないものである。

3  広島中央支部の深夜勤反対の立場

(一) 深夜勤問題の発端となった五九・二システム改善の導入に当たっては、これにより全廃されることとなる鉄道郵便局に勤務する労働者の職場確保及び前記のとおり劣悪化する全国八〇余の地域区分局の労働条件の確保が同時並行的に解決されるべき課題であった。ところが、五九・二システム改善をめぐる中央交渉は、前者の課題を解決したのみで、同システム改善の実施に合意し、これが実施されるに至った。

そして、同システム改善の出発時点から未解決のままであった地域区分局の労働条件の改善とシステム上の問題解決(五九・二アフターフォロー)がその後も前進しないにもかかわらず、逆に郵政省から深夜勤導入が提案され、その是非をめぐる形で事態の全てが推移することとなり、ここに地域区分局の労働者は、深夜勤絶対反対を強く主張することとなった。このようにして、五九・二システム改善に始まる区分、運送システムの変更と深夜勤導入の動きは、そのシステムの拠点職場となった地域区分局の労働条件を大きく低下させるものとして、全国の地域区分局を中心にその反対行動が急速に展開された。

そこで、全逓中央本部も正規の決議機関とは別に、全国地域区分局代表者会議を四回にわたって開催するという異例な組織運営を行ったのであるが、右代表者会議では、五九・二システム改善実施以降の労働条件改善とシステム上の問題点の解決を何よりも優先すべきであり、深夜勤は絶対容認できないとの意見が常に大勢を占めた。

以上のような動向を受け、五九・二システム改善の実施数箇月後に開催された全逓の第三八回高知全国大会は、五九・二システム改善後の問題点の解決についてまず全力を挙げることを決定し、昭和五九年一〇月開催の第八三回全逓中央委員会も同様の決定をすると同時に、郵政省から提案された深夜勤について「反対の立場で交渉事として対処する」という基本的態度を決定し、深夜勤に対し反対の意思を表明した。この方針は、本件座り込み闘争直後に開催された第四〇回郡山全国大会で条件闘争に移行することを正式に決定するまで、変更されることはなかった。

(二) 以上のとおり、五九・二システム改善の結果、従来から劣悪であった地域区分局の労働条件は更に悪化することとなったので、その改善を強く要求していたところ、郵政省は、この切実な要求に耳を傾けないばかりか、逆により効率的な要員配置のみを理由として、更に苛酷な労働条件をもたらす深夜勤を提案してきた。しかし、深夜勤は、これに従事する労働者の日々の労働の痛苦にとどまらず、将来にわたる健康破壊、雇用不安をも引き起こす恐れが大であり、かつ家族を含めての家庭生活、地域生活にまでも大きな影響をもたらすものであって、労働者、労働組合にとって絶対受け入れることのできない提案であり、これに反対するのは、労働組合として当然の責務である。

したがって、広島中央支部が堅持してきた深夜勤絶対反対の立場は、労働組合として至極当然な行動であり、また、前記のような郵政省と全逓の交渉経過、それを受けての全逓内部の決議機関における討議の経過等からみて、極めて当たり前の立場であったといえる。

4  本件座り込み闘争の意義

広島中央支部は、深夜勤問題をめぐり、組織内における多くの討論と学習、郵政省や上部機関への働き掛け、それぞれの決議機関への意見反映、また家族を含めての意思表示を行ってきたほか、全国の地域区分局を含めた多くの労働者とともに深夜勤導入反対の意見を表明して闘争を進めてきた。そして、深夜勤導入が最終的に決定されるかどうかの重要な局面に至った全逓第四〇回郡山全国大会(昭和六一年九月開催予定)を目前に控え、同支部は、本件座り込み闘争を実施した。その目的は、一つは五九・二システム改善以降の深夜勤反対闘争の最終集約として深夜勤絶対反対の意思を郵政省に示すこと、二つは広島中央局の労働条件とそれをめぐる闘いについて、広く広島の市民、労働者にアピールすることであった。

労働組合が自らの職場の労働条件の維持、改善を求め、行動し闘うことは、労働組合の組織の根本に関わる任務であり、本件の座り込み闘争は、深夜勤という極めて劣悪、苛酷な労働条件をもたらす服務改悪という合理化に対して反対し闘うという、労働組合として当然の行動であった。

5  懲戒権の濫用等

本件座り込み闘争は、前記詳述したとおり、極めて劣悪、苛酷な労働条件をもたらす深夜勤に反対するという労働組合として至極当然で正当な活動の一環として行われたものであって、広島中央支部の深夜勤問題に対する意思表示であり、かつ、労働組合にとって重要な意義を有する宣伝活動である。そして、座り込みの態様においても、参加者は、全員勤務時間外の組合員であり、場所も公衆出入口や職員通用門には一切はみ出ておらず、当局や利用者とも一切のトラブルもなく整然と行われており、当局に対し業務上の支障等一切の不利益を与えていない。右態様に照らし、本件座り込みは、いわゆる職場占拠と異なり、企業施設に対する積極的な加害行為を伴うものではなく、使用者の施設管理権と抵触するものでもない。また、組合の宣伝活動の自由の前には、施設管理権も一定の制約を受けるのであって、本件座り込みは、争議に近い状況にあって、広島中央支部が組合の団結力の示威手段として行ったものであり、被告は、受忍すべきである。なお、全逓は、昭和五三年から昭和五四年にかけて行われた反マル生闘争時において構内座り込み闘争を長期かつ大規模に行ったにもかかわらず、不利益処分は、全くなされていない。ところが、被告は、右のような原告らに有利な事由を全く考慮することなく、定期昇級(ママ)、昇格、特別昇級(ママ)にまで多大の不利益を及ぼす減給処分という重い処分を行った。

以上の事情を総合考慮すると、本件処分は、組合の正当な活動を否定するものであるばかりでなく、重きに過ぎ、懲戒権の濫用として無効である。

六  再抗弁に対する認否及び反論

1(一)  再抗弁1の(一)の(1)は否認する。

五九・二システム改善は、電気通信メディア、民間宅配業との厳しい競争状態のもとにある郵便事業が、国営事業として利用者である国民のニーズに応えていくために、従来の鉄道便中心の輸送システムから専用自動車便中心の輸送システムへの変更により郵便物輸送のスピードアップを図るために実施されたものであり、国鉄の分割、民営化に便乗して鉄道郵便局を廃止することを目的としたものではない。

このシステム改善の結果、一日当たり手紙、はがきの約三〇パーセント、約一〇〇〇万通がスピードアップし、小包についてもスピードアップしているのであって、明らかにその目的に合致した成果を収めている。

(二)  同(2)のうち、拠点間輸送、二けた区分が導入されたことは認めるが、その余は否認する。

(三)  同(3)のうち、普通郵便の配達一度化及び速達郵便物の配達度数減が行われたこと並びに一定基準を充たす商業地域に限って二度配達を行っていることは認めるが、その余は否認する。

配達の一度化は、郵便事業の健全な経営を確保し、社会経済の動向に適切に対応していくために、サービスの適正化を図る目的で行われたものである。五九・二システム改善により、配達の一度化にかかわらず、全体として郵便のスピードアップが図られている。また、郵便の利用度の高い事業所等の集中している地域で、事業上の必要から郵便物を一日に二度受け取りたいという要望の高いところでは、一日に二度配達しているが、これも利用者のニーズを十分考慮した措置であって、結局、配達の一度化は、実質的にみて需要の多寡に応じた適切な措置というべく、郵便法一条の精神に反するものではない。

(四)  同1の(二)のうち、集配課職員の一日の勤務時間が延長されたこと、広島中央局で通配区、混合区の合計が二〇区域となり、五名定員が減少したこと、郵便自動車のパンク横転事故が発生し、広島中央局第三郵便課主事がパレットの車輪にひかれ、右足親指骨を骨折したことは認めるが、その余は否認する。

五九・二システム改善に伴い、広島中央局郵便関係各課(第一ないし第三各郵便課)においては、合計三五名が増員されており、業務量に見合う要員が適正に措置されている。また、集配課職員の一日の勤務時間が従前より約四〇分長くなったのは、一勤務指定期間(四週間)中に勤務の割り振りをしない日(非番日)が一日増加した(いわゆる「休み」の日が一日増えた。)ことによるものであって、職員の勤務条件はむしろ向上している。また、郵便自動車の横転事故は、郵便自動車が釘を踏んでパンクしたことによるものであり、骨折事故は、職員がパレットを移動中に誤って車輪に足を踏まれて発生したものである。

2  同2は、冒頭の事実のうち、郵政省が深夜勤の導入を提案したこと、(一)のうち、深夜勤務が人間の生理的条件や社会生活に何らかの影響を与えること、(二)の(1)のうち、一六勤では約三時間の仮眠時間が設けられていること、広島中央局第二、第三各郵便課では仮眠時間を設けていること、(二)の(2)のうち、一六勤が暦日二日間の勤務であり、深夜勤が一日勤務であることは認めるが、その余は否認する。

郵便事業のように、いわゆる連続操業型の事業にあっては、夜間作業は、不可欠であり、郵政省は、従来から一六勤という深夜の就労を取り入れていたが、五九・二システム改善により深夜帯の業務が著しく増加したことにかんがみ、従来の一六勤が暦日二日にわたる長時間勤務であるとして深夜帯に長時間の特例休息時間を付与するなど服務の効率性の観点から改善を要することから、一六勤に比べ服務の効率性の高い深夜勤を導入したものである。

郵便事業は、国営事業であり、国民に良好なサービスを提供することが責務であるところ、郵政省は、郵便物のスピードアップという利用者である国民のニーズに応えるために輸送システムを改善し、業務処理を効率的に行うために深夜勤を導入したのであるから、是認されるべきである。

郵政省の導入した深夜勤は、その回数が一勤務指定期間につき一人平均二・五回(但し、当面は二回とし、勤務指定変更の場合又は年末繁忙期間の場合等は三回となってもよい。)以内を原則とするものであるが、この勤務回数は、職員の健康等への配慮を考慮したものであり、また、他の深夜勤を実施している事業所と比較して非常に少ないものである。また、始終業時刻の基本形態を午後一〇時から翌朝午前六時二三分までとし、勤務時間七時間四九分、休憩時間四五分、休息時間一時間三三分、実働六時間一六分とする勤務であり、休憩時間と休息時間を合わせた二時間一八分を適宜勤務の途中に割り振り、食事、仮眠、休養等に当てることとされている。したがって、郵政省の深夜勤の拘束時間は、八時間三四分であり、この点についても他の深夜勤を実施している事業所と比較して好条件となっている。さらに、深夜勤の終業日(深夜勤が連続した場合は、最終の深夜勤の終業日)に原則として非番日が付与されることとされ、加えて、深夜勤一回につき二六〇〇円の夜間特別勤務手当が支給され、健康管理面についても、例えば、深夜勤に従事する者に対しては、定期健康診断のほか特別健康診断も実施するなどの配慮をしているのであって、深夜勤が社会的に相当な勤務条件であることは明白である。

3  同3のうち、組合内部の動向は不知、その余は否認する。

4  同4は不知ないし争う。

本件座り込み闘争は、広島中央支部の上部組織である全逓広島地区本部(以下「広島地区本部」という。)の指導に反して広島中央支部において独自に企画し、実施されたものであり、労働組合の上部組織の統制に反して行われたいわゆる山ネコ闘争である。

全国組織である全逓の中にあってこのような座り込み闘争を実施したのは、同支部のみであり、本件以外には、全国の地域区分局はもとより、いかなる職場においてもこのような違法闘争は全く行われていない。

本件座り込み闘争は、庁舎管理規程及び就業規則に抵触する違法な組合活動である上、労働組合の上部組織の統制に反して行われたものであり、全国で唯一無二の闘争であったこと等を勘案すれば、本件座り込み闘争は、組合内部においてさえ必要性と相当性を否定されているものであったことが明らかである。

5  同5は争う。

(一) 労働組合が庁舎等において組合活動を行う場合であっても、庁舎管理規程等に基づき庁舎管理者が有する庁舎管理権に服さねばならないことは当然であって、労働組合であるからといって、当然に企業の物的施設を利用する権利を保障されているものではなく、労働組合又はその組合員が使用者の許可を得ることなく、組合活動のために企業の物的施設を利用することは許されないのであって、組合活動としての正当性を有しない。

(二) 横断幕は、移動させるまでの間の約一時間四五分にわたって、お客様周知用掲示板の前面に掲げられていたのであって、その間同掲示板に掲出してあった郵政事業に関するお客様周知用掲示物が見えない状況に置かれ、掲示板の機能が失われていたのであり、本件座り込み闘争が業務に支障を与えたことは明らかである。

また、本件座り込み闘争が実施された場所は、幹線道路に面し、郵便局利用者を含め、通行人が非常に多く、本件座り込み闘争は、これら大勢の者の目に触れている。そして、本件座り込み闘争参加者の装いは、様々で、その態度も雑然とした状態であり、整然というには程遠いものであった。また、本件座り込み闘争の参加者が一団となった集団であることは一目瞭然であって、更に、原告らは、携帯マイクを使用して司会進行、経過報告やあいさつ、シュプレヒコールの呼び掛けを行っただけでなく、参加者も大声でシュプレヒコールを繰り返すなど喧噪な状態になったこともあり、現に通行人の中には、座り込みを目撃してわざわざ向い側の歩道に迂回した者さえあった。このような本件座り込み闘争の態様等に照らし、右闘争を目のあたりにした利用者その他市民の中には、広島中央局の業務運営に対し不信感や不安感、さらには嫌悪感をも抱いた人がいたであろうことが優に窺われ、また、携帯マイクの声や大声のシュプレヒコールが郵便局内にいる利用者の耳にも達し得る状況にあるのであるから、本件座り込みが広島中央局の業務運営に支障を与えたことは疑いのないところである。

そして、公共サービスである郵政事業の本質に照らし、現実具体的な業務支障を生じる蓋然性が高いこと自体がすでに業務支障と評し得るところである。

ところで、原告らに懲戒事由該当の行為があることは、前記のとおりであるが、その場合に懲戒処分を行うかどうか、行うとしてどのような内容の処分を行うかについては、懲戒権者に一定範囲の裁量権があり、その裁量権の行使としてなした懲戒処分は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認められる場合でない限り、その裁量権の範囲内にあるものとして、違法とならないものというべきである。

これを本件についてみるに、被告は、原告らが本件座り込みその他の違法行為を指揮し、かつ率先実行したことのほか、原告らの行為の原因、動機、性質、態様、結果(右業務支障を含む。)、さらに原告らの行為の前後における態度、平素の勤務状況等諸般の事情を総合的に勘案して本件処分をしたものであり、本件処分が懲戒権者としての適法な裁量権の行使に該当することは明らかである。

なお、昭和五三年から翌年にかけての反マル生闘争当時は、労使関係が対立状態にあって、広島中央支部以外にも全国的な座り込み闘争が実施された特異な時期であり、また、当時実施された座り込み闘争は、昼の休憩時間の二〇分程度という短いものであったのに対し、本件座り込み闘争は、全国的にも他に例がなく、かつ、ほぼ全一日にわたる長時間のもので、しかも、本件座り込み闘争は、全逓内部においてさえ、その必要性と相当性を否定されている統制違反の組合活動であるばかりか、事前及び当日における再三再四の広島中央局長ら同局管理者の中止申し入れ、解散、退去命令等を無視して強行実施されたものであって、反マル生闘争時の座り込みに比べ、情状においても極めて悪質である。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する(略)。

理由

一  請求原因1及び2の各事実並びに同3の事実のうち、原告らが本件処分について人事院に対し審査請求をし、人事院が平成元年三月二八日付けで本件処分を承認する旨の判定をしたことは当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば、右判定書は、同年四月五日以降原告らに送達されたことが認められる。

二  そこで、抗弁について判断する。

1  抗弁1(原告らの経歴)は当事者間に争いがなく、(証拠略)によると、原告伊達は昭和五三年以降広島中央支部の支部長、原告安井は昭和六〇年一〇月以降同副支部長、原告朝原は昭和五九年以降同副支部長、原告佐々木は昭和五三年以降同書記長の各役職にあったことが認められる。

2  同2(本件座り込み闘争に至るまでの経緯)については、(二)の(4)のうち、広島中央局当局が深夜勤導入計画について職員に周知、説明しようとしていたところ、広島中央支部が妨害戦術を決めた旨の情報を得たとの点及び(二)の(5)のうち、同支部役員が職員周知を妨害したとの点を除くその余の事実は全部当事者間に争いがない。

そして(証拠略)及び弁論の全趣旨を総合すると、広島中央局当局は、郵政省が昭和五九年一一月九日全逓中央本部に提示した前記計画書(地域区分局における夜間作業の効率的処理について)等の資料に基づいて、昭和六〇年三月郵便関係の三課(普通郵便課、特殊郵便課及び小包郵便課)の業務研究会において職員に対し深夜勤導入計画について周知、説明しようとしていたところ、広島中央支部は、深夜勤導入反対の立場から右職員周知に反対し、当局側の職員周知に対し、<1>時間外の業務研究会についてはボイコットする、<2>勤務時間中の業務研究会については質問攻めにする、<3>配付資料を返納する等の妨害戦術に出ることを決めたこと、当局は、右妨害戦術についての情報を入手し、同年三月一四日原告伊達に対し妨害しないよう警告したこと、右警告にもかかわらず、同支部は、同月一八、一九日の普通郵便課の業務研究会において、支部役員が先頭になって、課長の説明に対し野次を飛ばしたり、質問攻めにし、また、会議をやめろと大声で怒鳴ったりして課長を退席させたり、配布資料に絶対反対などと落書をして放置して退室するなどの妨害行為を行ったことが認められる。

また、(証拠略)及び右証言によると、手塚次長は、昭和六一年八月二七日原告らに本件座り込み闘争の中止方を警告した際、庁舎管理上、庁舎敷地内での座り込みは認められないこと、深夜勤問題は、郵政省、全逓中央本部間で話合いがなされているものであること、座り込みは、利用者の郵政事業への不信感と郵便局に対するイメージダウンにもつながりかねないこと、今日の労使関係や郵便事業の置かれている立場を考えると、決してプラスにならないこと、さらに、敢えて強行すれば重大なこととして受け止め、厳正な対処をする旨を明らかにし、注意、警告をしたことが認められる。

3  同3(本件座り込み闘争と当局の対処)の事実(ただし、参加人員数及び横断幕の撤去命令に従わなかったとの点を除く。)は当事者間に争いがない。

そこで、同4(原告らの非違行為)について判断するに、冒頭の事実のうち、原告らが共謀の上、本件座り込み闘争を企画、指導したこと、(一)ないし(四)のうち時刻や発言内容の詳細を除くその余の事実は当事者間に争いがない。

(証拠略)の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、次のとおり認められる。

(一)  本件座り込み闘争は、昭和六一年七月に開催された広島中央支部執行委員会(原告らが当時同支部三役の役職にあったことは前記認定のとおりである。)や分会長会議で実施の方向があらかじめ決定され、同年八月二四日の第二八回支部定期大会(支部の最高決議機関であり、支部長が招集する。)において実施の決議がなされたものであるが、当時、原告らは、いずれも同支部執行部の最高幹部である支部三役の役職にあって、支部大会においては提案者側であり、本件座り込み闘争の計画に関与していた。

(二)  本件座り込み闘争は、同年八月三〇日午前九時頃から午後五時四〇分頃まで行われ、全逓組合員は、「深夜勤導入阻止」、「深夜勤をぶっとばせ」等と記載されたゼッケンを着用して、国道五四号線に面した広島中央局正面の南側利用者出入口脇のお客様周知用掲示板前の構内において、同局庁舎を背にして交替で二五名ないし六〇名の集団となって座り込みを行った。本件座り込み闘争が行われた場所は、幹線道路である国道に面し、付近には市役所、区役所、会社が多数あるほか商店街も近く、また、バスや電車の停留所が近くにあり、通行人(郵便局利用者を含む。)が非常に多い場所である。参加者は、主として広島中央支部の組合員であり、一部広島東郵便局及び安芸府中郵便局の職員で全逓広島東支部の組合員が含まれていたが、いずれも勤務時間外の組合員であり、総参加人員(単人員)は、約一五〇名(当局側が確認したのは、約一二〇名)であった。広島中央支部は、座り込み開始前頃に前記掲示板前の庁舎敷地内に「深夜勤導入絶対反対全逓広島中央支部」と記載された横断幕及び同横断幕の両端付近に同支部と全逓広島東支部の全逓旗を掲出し、同支部執行委員らは、同局庁舎前歩道において「市民のみなさんに訴えます」と題するビラを通行人に配布した。なお、当日は、土曜日であり、右利用者出入口は、午後二時頃閉鎖された。

(三)  原告伊達及び同佐々木は午前九時頃から午後五時四〇分頃まで、原告安井は午後一時頃から午後五時四〇分頃まで、原告朝原は午前九時頃から午後一時頃までそれぞれ本件座り込みに参加し、原告伊達と同朝原が短時間他の組合員と一緒に座り込んだほかは、原告らは、腕章を着用し、主として座り込み参加者に対面して同局庁舎前歩道上に立ち、携帯マイクを使用して司会や参加者に対する指示、あいさつ等を行い、シュプレヒコールの音頭を取ったりしたが、座り込み闘争の具体的実施状況等は、次のとおりである。

(1) 午前九時一分頃、原告伊達は、同局庁舎前に集まってきた組合員に対し「準備が終わったら、順次座ってくれ。」と指示し、これを受けて、約四〇名の組合員が前記ゼッケンを着用して前記掲示板前の構内に庁舎を背にして座り込みを始めたところ、原告伊達、同朝原、同佐々木は、同支部執行委員らとともに座り込み参加者に対面して庁舎前歩道上に立ち、午前九時二分頃、原告朝原は、同組合員らに対し「できるだけつめて座ってくれ。」と指示した。

(2) 午前九時六分頃、手塚次長が原告伊達に対して違法な行為は行わないよう命令したが、同原告は、「やめる気はないので、無用な介入をしてトラブルを起こすな。」と言って同次長の命令に従わなかった。

同次長は、引き続いて午前九時七分頃、座り込み参加者の前に行き、「局長の命令です。当局構内での座り込みは許可していないから直ちに解散しなさい。」と命令したところ、原告伊達が再度「無用なトラブルを避けるため、当局は介入しないでもらいたい。」と述べ、命令に従わなかった。

(3) 午前九時一〇分頃、原告佐々木は、座り込み参加者に対して「皆さんに協力してもらい、何としても深夜勤反対を貫きたいと思いますので、よろしくお願いします。なお、今から支部長のあいさつがあります。」と紹介し、これを受けた原告伊達は、座り込み参加者に対して「来月三日から全国大会が開催され、議案の中で深夜勤については、条件付きで導入される旨記載されているが(中略)、この局面でどうするかを考えてこの座り込みを決定しました。今の段階でこれを行うのはマイナスではないかという意見なり、申し入れがありましたが、しかし、やむを得ないことと思っています。(中略)本部は、当局が言ったことと同じことを言って行動を押さえようとしました。(中略)地区委員会では、深夜勤反対は少数意見として処理され、大変残念な思いをしております。(中略)当局からはやめろと申し入れがあったが、介入するなと言っておきました。挑発に乗らないようにしてください。」などとあいさつをした。

これに続いて午前九時二三分頃、原告佐々木は、座り込み参加者に対し「長時間の闘いとなり、宿明者が多い中で大変だと思いますが、今から団結ガンバローを行いますので立ってください。」と指示し、これに応じて立ち上がった組合員に対し、原告朝原が大声で「団結用意」と呼び掛け、右手を上前方に突き上げながら、大声で「深夜勤導入阻止のため一致団結してガンバロー」と音頭を取り、座り込み参加者にこれを唱和させ、このシュプレヒコールが三回繰り返された。元の位置に座り込んだ組合員に対し、午前九時二四分頃、原告伊達が「それでは今から座り込みに入ります。(後略)」と言った。

(4) 午前九時二五分頃、手塚次長が原告伊達に局長名の退去命令書を手交し、違法行為であるから直ちに解散するよう命令したところ、同原告は、「一応受け取っておきましょう。」と言って同命令書を受け取ったが、同命令には従わなかった。

引き続いて午前九時二六分頃、手塚次長が座り込み参加者に対して「全員に局長の命令を伝えます。当局構内での座り込みは許可していないから直ちに退去しなさい。」と命令したが、全く応じる者がいなかった。

さらに、午前九時二七分頃、手塚次長は、原告朝原に対して「掲示板のポスターが見えるよう横断幕を撤去しなさい。」と命令したが、同原告は、これに応じなかった。

(5) 午前一〇時一八分頃、手塚次長は、原告伊達に対して「今日の座り込みの責任者は誰か。」と尋ねたところ、同原告が「私だ。」と答えたので、手塚次長は、同原告に対し「横断幕と手に持っている全逓旗、局舎に立て掛けてある全逓旗を直ちに撤去してください。」と命令したところ、同原告は、「なぜか。」と問い返し、同次長が「当局の構内である。」と答えると、同原告は、「どう具体的に支障があるのか。」と反問し、同次長が「答える必要はない。直ちに撤去してください。」と重ねて命じたが、これに従わなかった。

(6) 午前一〇時三二分頃、原告佐々木が「支部長から今までの経過について報告します。」と紹介し、これを受けて、原告伊達は、右(5)の手塚次長とのやり取りについて説明した後、「当局の人数が増えているが、きちんとした抗議行動をとってもらいたい。」と経過報告及び指示をした。

(7) 原告伊達は、当初、横断幕等の前記撤去命令を無視していたが、午前一〇時二三分頃前記掲示板に新たにポスターが貼付され、掲示板の利用者周知用ポスターが横断幕によってさえぎられ、庁舎前の歩道側から見えない状態であったことから、同原告は、当局から業務妨害であると指摘されるのを懸念し、支部役員と相談の上、午前一〇時四五分頃右横断幕の移動を指示し、横断幕は、座り込みをしている組合員の前面に移動された。右移動後、横断幕の下部は公道上に出ていたが、その上部、支柱は、敷地内に座り込んでいた組合員が手に持っていたため庁舎敷地内にあった。

なお、庁舎敷地内に掲出されていた全逓旗二本は、移動されなかった。

(8) 午前一一時一分頃、広島中央局第一郵便課長川野久男が座り込み参加者に対し、「全員に局長の命令を伝えます。当局構内での座り込みは許可していないので、直ちに解散退去しなさい。」と移動しながら四回命令したが、全く応じる者がいなかった。

(9) 午前一一時一二分頃、同局局長青木健太郎(以下「青木局長」という。)は、座り込み現場にいた原告伊達のところへ赴き、横断幕と全逓旗の撤去命令を読み上げ、これを同原告に手交の上、「座り込みは認められないので、直ちに解散退去しなさい。」と命じ、さらに、「今日の労使関係や郵政事業が置かれている現状、地域における郵便局の立場を考えた場合、理解に苦しむ行動である。直ちに解散させなさい。」と命じたところ、同原告は、「外部に訴えるための行動である。理解してほしい。」と述べ、青木局長が「どういう理由であろうと座り込みは認められない。直ちに解散し、横断幕も撤去しなさい。」と重ねて命令したが、同原告は、「今日は応じられない。」と述べて、これに従わなかった。

引き続いて午前一一時一五分頃、青木局長は、座り込み参加者に対して「私は局長です。座り込みは許可していませんので直ちに解散退去しなさい。」と命令したが、全く応じる者がいなかった。その頃、原告伊達は、座り込み参加者に対して「ただ今、青木局長から横断幕を撤去してくれという警告を受けた。」と報告した。

(10) 午後〇時一三分頃、原告佐々木は、朝から座り込みを行っている組合員に対して「宿明者が多いのでつらいと思うが、座り込みは六時まで継続するつもりなので、できるだけ残ってもらいたい。週休、年休の者には一二時と一二時三〇分に集合するように連絡しているので、若干違うが、できれば今しばらく続けていただきたい。(中略)では、朝原副支部長の音頭で団結ガンバローを行いたい。」と指示、紹介した。

これを受けた原告朝原は、午後〇時一七分頃、座り込み参加者の前に立ち、大声で「深夜勤導入反対のため団結してガンバロー。」と音頭を取りながら、右手こぶしを上前方に突き上げた。座り込み参加者は、これに呼応して同じく三回繰り返した。その後、同原告は、座り込み参加者に対して「ゼッケンを着けて座ってください。」と指示した。

(11) 午後一時頃、同局第三郵便課長小野道隆(以下「小野課長」という。)及び同局貯金課長土居弘和は、座り込み参加者に対し、それぞれ「局長の命令です。構内での座り込みは許可していないので直ちに解散しなさい。」と命令したが、全く応じる者がいなかった。また、小野課長は、原告伊達に対して「局長の命令です。構内での座り込みは許可していないので直ちに解散しなさい。」と命令したが、同原告は、従わなかった。

(12) 午後三時三〇分頃、原告伊達、同安井及び同佐々木らは、座り込みを行っている三十数名の組合員に対面して横一列に並んで立ち、原告佐々木が「ここで、本日の一六勤の仲間が退場されます。九時から始まって六時間三〇分を経過しましたが、やがて集配分会の仲間も参加されると思います。ここで支部長からあいさつがあります。」と発言した。

これを受けて、原告伊達は、午後三時三一分頃、「深夜勤導入反対については、全員ではないが、しかし少数でもない。昨日の地区委員会で結果として本部を支持することとなったが、我々は、連帯して来る九月四日の全国大会でも闘うよう盛り上がりがある。とりわけ、五九・二アフターフォローの問題も含めて闘うことを誓い合いたい。」とあいさつした。

(13) 午後四時三五分頃、原告佐々木は、その後参加した集配分会の組合員を含む座り込み参加者に対して、「集配分会の皆さん、大変ご苦労さんです。九時から座り込みを行っていますが、今まで何の混乱もなく行われています。(後略)」とあいさつした。

引き続いて午後四時三七分頃、原告伊達は、「暑い中ご苦労さんです。(中略)集配のみなさんが参加しているので現状を報告します。第九九回地区委員会で深夜勤反対は少数否決されました。若干の中身の修正はありましたが、賛成の結論となりました。(中略)」と発言した後、当日朝からの広島中央局管理者とのやり取りなどについて説明し、「最後まで整然と座り込み闘争を続行していきましょう。」とあいさつした。

(14) 午後五時頃、同局第二集配課長西村五郎が座り込み参加者に対して「局長の命令です。当局構内での座り込みは許可していないから直ちに解散しなさい。」と命令し、続いて午後五時三分頃、同局第三集配課長隆杉正之が座り込み参加者に対して右と同様命令したが、全く応じる者がいなかった。

(15) 午後五時二九分頃、原告佐々木は、座り込み参加者の前に立ち、総括集会を行う旨述べた後、「本日、深夜勤導入反対の座り込みを行ったが、(中略)一五一名が参加し大成功であった。(中略)それでは支部長があいさつします。」と報告、紹介をした。

これを受けて、原告伊達は、午後五時二五分頃、座り込み参加者に対して「今回の座り込みは大成功であった。七八年から七九年のマル生闘争以来のことである。(中略)座り込みは攻撃的でない静かな闘争であるが、どちらになるにしても今まで以上に困難な職場実態が出てくる。我々が何を支えにするかお互いの力をつないでいかなければなりません。」とあいさつした。

午後五時三八分頃、原告佐々木は、座り込み参加者に対し、「安井副支部長による団結ガンバローを行います。」と紹介し、引き続き午後五時三九分頃、原告安井は、座り込み参加者に対して「団結ガンバローを行いますので唱和願います。」と言って、「団結ガンバロー」を三回繰り返し、それに呼応して参加者も「団結ガンバロー」と同じく繰り返した。

(16) 午後五時四〇分頃、座り込み参加者は解散した。

(四)  なお、本件座り込み闘争の実施中、当局との間で右のような解散、退去、撤去命令のやり取りがあったほかは、当局や通行人との間で格別トラブルが生じたことはなかった。

4  次に、原告らの行為が懲戒事由に該当するかどうか検討するに、成立に争いがない(証拠略)及び弁論の全趣旨によると、次のとおり認められる。

(一)  郵政大臣は、郵政省の組織に属する行政機関において遂行する事業及び行政事務の用に供する庁舎、土地及びその他の設備(以下「庁舎等」という。)の適正な管理を行うことを目的として庁舎管理規程を定めている。同規程によると、郵便局長を郵便局における庁舎管理者とし(二条)、職員は、庁舎管理者が庁舎管理上必要な事項を指示したときは、その指示に従わなければならないとしている(三条)。さらに、庁舎管理者は、庁舎における秩序維持等に支障がないと認める場合に限り、庁舎等の一部をその目的外に使用することを許可し得るものと定めている(四条、郵便局の庁舎等は、郵政大臣の管理に係る行政財産(国有財産法三条、五条)であって、その本来の目的である国の営む郵政事業の達成のために供用されるべきものであるのは当然であることから、右のように定められているものである。)。また、五条ないし一二条において、本来の目的外のために使用を許可するための条件等について規定し、これら許可条件等に違反する行為をする者があれば、庁舎管理者は、中止又は退去命令、撤去命令等を発することができることとされている。

(二)  そして、職場の秩序維持について規定した郵政省就業規則一三条には、職員は、庁舎その他国の施設において、演説もしくは集会を行い、・・・その他これに類する行為をしてはならないこと(七号)、職員は、庁舎管理規程に基づく庁舎管理者の指示に従わなければならないこと(九号)が定められている。

以上によれば、何人も、庁舎管理者の許可ある場合を除いて、庁舎等を目的外に使用することは許されず、また、職員は、就業規則一三条及び庁舎管理規程三条に基づき庁舎管理者が発した中止又は退去命令、撤去命令等に従わなければならないものというべきである。

なお、企業は、その存立を維持し目的たる事業の円滑な運営を図るため、それを構成する人的要素及びその所有し管理する物的施設の両者を総合し、合理的・合目的的に配備組織して企業秩序を定立し、その企業秩序のもとにその活動を行うものであって、企業は、その構成員に対してこれに服することを求め得べく、その一環として職場環境を適正良好に保持し規律のある業務の運営態勢を確保するため、その物的施設を許諾された目的以外に利用してはならない旨を一般的に規則をもって定め、又は具体的に指示、命令することができ、これに違反する者がある場合には、企業秩序を乱すものとして当該行為者に対し、その行為の中止、原状回復等必要な指示、命令を発し、又は制裁として懲戒処分を行うことができるものと解するのが相当である。

そして、前記3認定の事実によれば、本件座り込み闘争が行われた場所は、被告が庁舎管理規程に基づいて管理する庁舎等の一部である構内敷地であり、被告は、右場所を座り込みという目的外に使用することを許可していなかったところ、原告らは、広島中央支部の三役として、昭和六一年八月二四日の支部定期大会に先んじて同年七月の執行委員会や分会長会議において本件座り込み闘争を提案し、実施の方向を決定した上で、右大会に提案者として臨み、実施の決議を得ていること、原告らは、本件座り込み闘争において司会、あいさつ、シュプレヒコールの音頭等の役割分担をしていたことが認められるのであって、これらによれば、原告らは、同支部執行部の最高責任者として本件座り込み闘争を相謀って企画、立案し、実施に導いたものであることが十分推認し得る。しかも、後記三の7認定のとおり、本件座り込み闘争は、同支部の上部組織である広島地区本部の再三にわたる中止要請を無視して、支部独自の行動として行われたものであり、その意味において原告ら支部三役が企画、立案、実施の段階で果たした役割が大きかったことが窺われる。

次に、前記3認定の事実によれば、原告伊達は、終日にわたり座り込みに参加し、管理者の再三にわたる解散、退去命令及び撤去命令に従わず、「順次座るように」、「当局の挑発に乗らないように」、「きちんとした抗議行動をとるように」との指示や「今から座り込みに入る」との指導をし、その他経過報告やあいさつを行っており、原告安井は、おおむね午後の半日にわたり座り込みに参加し、当局の退去命令に従わず、シュプレヒコールの音頭を取って座り込みを指導し、原告朝原は、おおむね午前の半日にわたり座り込みに参加し、再三にわたる解散、退去命令及び撤去命令に従わず、「できるだけつめて座るように」、「ゼッケンを着けて座るように」との指示を行い、原告佐々木は、終日にわたり座り込みに参加し、「深夜勤反対を貫きたいのでよろしく」との指示を行い、シュプレヒコールやあいさつ等に際しての紹介や指示を行ったほか、本件座り込み闘争の経緯、目的等について説明を行う等、終始進行役を務めていたのであって、原告らは、本件座り込み闘争において指示、指導行為を行ったものと認められる。

原告らは、座り込みの指導とは、座り込むことを直接促す行為であって、経過の説明、あいさつ、ガンバローの音頭等は、既に座り込んでいる参加者に対して単に言葉を発するだけであり、座り込みの指導とは関係がないと主張するが、指導行為を原告ら主張のように限定して解すべき理由に乏しく、右主張は、採用の限りでない。

また、原告らは、解散命令については、その根拠が明白でないと主張するが、(証拠略)によると、庁舎管理規程一一条は、「庁舎管理者は、次の各号の一に該当する者に対して、その行為の中止又は退去を命ずるものとする。ただし、庁舎管理者が正当な理由があると認める場合、又は庁舎等における秩序維持等に支障がないと認める場合は、この限りでない。」と規定し、その一〇号に「庁舎等において、すわり込み・・・をし、又はしようとする者」と規定されていることが認められるところ、座り込みの解散命令とは、座り込みを中止し退去することを命ずることにほかならないから、右一三条の規定を根拠として解散を命じることができるものと解される。よって、原告らの右主張は採用しない。

次に、原告らは、被告は、座り込みは、どういう理由であろうと認められないという誤った認識のもとに、退去命令を発したものであるから違法であると主張するので、案ずるに、本件座り込み闘争については、庁舎管理規程一一条ただし書に該当しないことは、前説示に照らし明らかであって、被告の発した退去命令は、同規程の要件を具備するものであって、これをもって違法ということはできないから、右主張は採用しない。

さらに、原告らは、横断幕は、午前一〇時四五分には公道上に移動したから、それ以後に発せられた撤去命令は、違法であると主張するが、前記3の(三)の(7)に認定したとおり、横断幕は、午前一〇時四五分頃座り込み参加者の前面に移動され、その下部は、公道上に出ていたが、その上部、支柱は依然として庁舎敷地内にあったのであって、右移動後に発せられた横断幕の撤去命令をもって違法ということはできないから、右主張は失当である。

以上によれば、原告らは、共謀して本件座り込み闘争の実施を企画した上、広島中央局長が事前にその中止を求め、構内の使用を許可しない旨通告しているにもかかわらず、これを無視して実施に移し、さらに、同局長が庁舎管理規程一一条、一二条に基づいて発した解散、退去、撤去命令を無視して、これに従わず、同局構内において本件座り込み闘争を指導して強行実施したものであって、原告らのこれらの行為は、就業規則一三条七号、九号及び庁舎管理規程三条に違反し、職場の秩序を乱す行為であるから、国の経営に係る郵政事業に従事する郵政事務官としての官職の信用を傷つけ、官職全体の不名誉となる行為に当たるものというべく、国家公務員法九九条に違反し、また、国民全体の奉仕者としてふさわしくない非行であるから、同法八二条一号及び三号に該当するものというべきである。

三  原告らは、本件座り込み闘争は、正当な組合活動であり、被告において受忍すべきであると主張するので判断するに、当事者間に争いがない前記抗弁2の(一)、(二)の各事実(ただし、(二)の(4)のうち広島中央局当局が深夜勤導入計画について職員に周知、説明しようとしていたところ、広島中央支部が妨害戦術を決めた旨の情報を得たとの点及び(二)の(5)のうち同支部役員が職員周知を妨害したとの点を除く。)に(証拠略)及び右本人尋問の結果を総合すると、広島中央支部が本件座り込み闘争を実施するに至った経緯等につき次のとおり認められる。

1  郵政省は、郵便事業が電気通信メディアの目覚ましい発展、民間宅配業者の著しい伸長によりし烈な競争下に置かれている状況にかんがみ、利用者のニーズに応えて郵便の通信手段としてのスピードアップを図るため、昭和五九年二月一日から従来の鉄道中心の輸送システムから専用自動車便中心の拠点間直行輸送システムへの変更と郵便物の二けた区分を内容とする五九・二システム改善を実施し、これにより郵便の自府県内の翌日配達、さらには隣接府県も可能な限りの翌日配達を目指した。

2  同システム改善の実施に伴い、郵便物の流れが構造的に変化し、同システムの拠点として指定された全国八〇余の地域区分局における深夜帯の業務量が著しく増加することとなった(例えば、ある地域区分局では、二・八倍に増加し、広島中央局では、約四〇パーセント増加した。)。郵政省は、右変化に対応する適切な要員配置、服務編成を行うことが五九・二システム改善の目的を達成するための重要な課題であるとして、昭和五九年一一月九日の団体交渉において全逓に対し、従来行われていた一六勤(午後四時頃から翌朝八時三〇分頃までの一六時間勤務)を基本としながら深夜勤(午後一〇時頃から翌朝六時三〇分頃までの勤務)を補完的に活用する深夜勤の導入を盛り込んだ「地域区分局における夜間作業の効率的処理について」と題する書面を提示した。

3  五九・二システム改善実施後、深夜帯の業務量が著しく増大した地域区分局を中心に労働条件改善の要求と不満が高まっていた。そして、深夜勤は、仮眠時間が設けられていない(一六勤には、約三時間の仮眠時間が設けられている。)などの点において、一六勤に比べはるかに苛酷な労働条件であり、健康破壊をもたらし、さらに家庭生活や社会生活の破壊にもつながるものであり、深夜勤の導入は、システム改善により悪化した地域区分局の労働条件を更に悪化させるものであるばかりでなく、右導入の真の狙いは、定員削減による合理化であるとして、全逓組合員の反対行動が展開されることとなった。このような状況の中で昭和五九年七月に開催された全逓高知全国大会では、積み残された五九・二システム改善後の問題点(地域区分局の労働条件の改善、要員問題等)の解決(五九・二アフターフォロー)の交渉に全力をあげることが決定され、同年一〇月一九日開催の第八三回全逓中央委員会でも、同様の決定がなされると同時に、深夜勤導入については、反対の立場で交渉事として扱うという基本的態度が決定された。

4  広島中央支部は、同年一〇月一五日開催された第五三回支部定期委員会(大会に次ぐ決議機関)において深夜勤導入に絶対反対する旨の決議を満場一致で行い、さらに、昭和六〇年三月三日開催の第五四回支部定期委員会において、全逓中央本部に対し、深夜勤導入についての当局の職員周知を同本部が合意していたことに抗議するとともに、右合意を廃棄し、深夜勤導入反対の闘いを組織の総力をあげて闘うよう要請する旨の決議を行い、続いて、前記のように当局の深夜勤導入に関する職員周知を妨害したり、勤務時間中に「深夜勤をぶっとばせ」等と記入されたTシャツを着用する行動に出るなど反対行動を強め、全国各地の全逓支部と深夜勤反対決議文等を交換するなど、終始、深夜勤導入絶対反対の態度を堅持していた。

5  全逓中央本部は、地域区分局において深夜勤導入に対する反対が強いことにかんがみ、昭和六〇年二月に地域区分局代表者会議を正規の決議機関とは別に開催し、中央交渉の現状や本部の考え方を説明したり、地域区分局の意見を聴取した。同会議は、その後三回開催された。

6  昭和六一年二月開催の第八八回全逓中央委員会において、中央執行委員会から「深夜勤導入を含む労働条件問題について職場討議を開始する」との提起がなされた。これに対し、広島中央支部は、同月一七日開催の第五六回支部委員会で、本部が右のように深夜勤の条件闘争の方針を提起し、基本的に反対の立場を放棄した方針転換に抗議するとともに、五九・二システム改善により悪化した地域区分局の夜間労働の改善をまず図るべきであり、深夜勤反対の闘いを展開するよう要請する旨の右中央委員会に宛てた決議をした。さらに、同支部は、同年六月から八月にかけて組合員及び家族を対象に深夜勤反対の署名活動に取り組み、署名簿を全逓本部及び郵政大臣に送付した。

7  右第八八回全逓中央委員会において、深夜勤の取扱いは、次期全国大会で決めることと議長集約されていたが、同大会が昭和六一年九月三、四日郡山市で開催されることになり、全逓本部は、右全国大会に深夜勤の条件付導入を提案するに至った。広島中央支部は、本部の右のような方針転換に危機感を強め、深夜勤導入の可否が最終的に決定される右全国大会の開催を目前に控え、五九・二システム改善以降の深夜勤反対闘争の最終集約として、支部としての反対意思を明確にすると同時にこれを郵政省や全逓本部に示し、併せて広島中央局の労働条件の実状とこれに対する同支部の闘いを広島市民に訴えることを目的として局前における本件座り込み闘争を計画し、同年八月二四日開催の第二八回定期大会において深夜勤導入絶対反対の決議をするとともに、前記二の3の(二)記載のとおり本件座り込み闘争の実施を決定した。

同支部の上部組織である広島地区本部は、同支部の右のような動きに対し、右時点における深夜勤をめぐる取り組みは、当局から提示を受け、全逓としてどう対応するか内部討議の段階であり、右時点で対外宣伝を行うことは戦術的に好ましくないことなどを理由に事前に再三にわたり座り込み闘争の中止方を要請し、本件座り込み闘争の前日である同年八月二九日開催の第九九回広島地区委員会において、局前座り込み行動は認めることはできず、仮に実施されても責任を負わないとの見解が承認された。

なお、全逓の中で本件のような座り込み闘争を実施したのは、広島中央支部のみであり、他の地域区分局はもとよりいかなる職場でも座り込み闘争は行われていない。

以上のとおり認められる。

右認定の事実によれば、庁舎敷地内で実施された本件座り込み闘争は、五九・二システム改善以来、深夜勤導入に絶対反対の態度を堅持してきた広島中央支部が、深夜勤導入の可否が決定される全国大会を目前に控えた最終局面において、組合活動の一環として深夜勤反対の意思を明確に表明し、これを郵政省当局及び上部機関に示すとともに市民に訴えることを目的として実施したものと認められる。

しかし、労働組合が当然に当該企業の物的施設を利用する権利を保障されていると解すべき理由は何ら存しないのであって、労働組合又は組合員であるからといって使用者の許諾なしに右物的施設を利用する権限を有しているということはできない。したがって、労働組合又はその組合員が使用者の許諾を得ないで企業の物的施設を利用して組合活動を行うことは、これらの者に対しその利用を許さないことが当該物的施設につき使用者の有する権利の濫用であると認められるような特段の事情がある場合を除いては、職場環境を適正良好に保持し規律のある業務の運営態勢を確保し得るように当該物的施設を管理利用する使用者の権限を侵し、企業秩序を乱すものであって、正当な組合活動に当たらず、使用者においてその中止、原状回復等必要な指示、命令を発することができるものと解すべきである。

そして、前記のとおり、本件座り込みが行われた場所は、被告が庁舎管理規程に基づいて管理する庁舎等の一部である構内敷地であり、被告は、右場所を座り込みという目的外に使用することを許可していなかったのであるから、これを組合活動として行う場合であっても、広島中央支部ないし組合員らは、本件座り込み闘争を構内において行う権限を有するものでないことは明らかである。そして更に、前記の事実によると、本件座り込み闘争は、同支部が深夜勤反対の意思を表明し、あわせて当局等にこれをアピールする等のために行った組合活動であり、被告の許可を得ないでなされたものであるところ、本件座り込みは、庁舎の利用者出入口脇のお客様周知用掲示板前に組合員が座り込むというものであって、このような座り込みに構内を使用することを許可しないこととしても(被告は、本件座り込み闘争に庁舎等の使用を許可すると、庁舎管理規程四条にいう「庁舎等における秩序維持等に支障」があるものと判断して、許可しなかったものと認められる。)、右は、郵政事業の能率的経営により公共の福祉を増進するとの目的にかなうよう、職場環境を適正良好に保持し規律のある業務の運営態勢を確保する、という企業秩序維持の観点からみて当然のことであり、庁舎管理者たる被告においてかかる庁舎等の目的外使用を受忍すべき理由はなく、これを目して庁舎等につき被告が有する管理権の濫用であるとは到底認めることができない。

そして、前記の事実によると、庁舎管理者である被告は、原告らに対し、事前に本件座り込み闘争の中止を求めるとともに構内の使用を許可しない旨通告していたにもかかわらず、原告らは、これを無視して強行したものであり、さらに、当局が座り込み実施中に再三にわたり座り込みを中止して解散、退去することを命令し、横断幕等の撤去を命令したにもかかわらず、これを無視して座り込みを続行したことが認められる。そうだとすると、本件座り込み闘争は、職場環境を適正良好に保持し規律のある業務の運営態勢を確保し得るように庁舎等を管理する被告の権限を侵し、職業秩序を乱すものとして違法であり、これをもって正当な組合活動であるとすることはできず、被告において受忍すべきものであるとは到底認められない。

四  次に、原告らは、本件処分は、重きに過ぎ、懲戒権を濫用してなされたものであると主張するので、以下検討する。

公務員につき国家公務員法に定められた懲戒事由がある場合に、懲戒処分を行うかどうか、懲戒処分を行うときにいかなる処分を選ぶかは、懲戒権者の裁量に任されていると解すべきであり、懲戒権者は、懲戒事由に該当すると認められる行為の原因、動機、性質、態様、結果、影響等のほか、当該公務員の右行為の前後における態度、懲戒処分等の処分歴、選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等諸般の事情を考慮して、懲戒処分をすべきかどうか、また、懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきかを決定することができるものと考えられる。そして、懲戒権者が右の裁量権の行使としてした懲戒処分は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認められる場合でない限り、その裁量権の範囲内にあるものとして、違法とならないものというべきである。

これを本件についてみるに、本件座り込み闘争が深夜勤絶対反対の態度を堅持していた広島中央支部が、全逓本部が全国大会に深夜勤の条件付導入を提案するに及んで危機感を抱き、反対の意思を明確に表明し、これを当局等にアピールする必要があるとしてなされたものであることは、前記三認定のとおりであり、また、座り込み参加者は、全員勤務時間外の組合員であり、当局や利用者と格別トラブルが生じていないことは、前記二の3認定のとおりである。そして、掲示板前に掲出された横断幕により掲示物が見えないことがあったことを除き、本件座り込み闘争により広島中央局における本来の業務自体が直接かつ具象的に阻害されたと認めるに足りる確実な証拠はない。また、(証拠略)によると、減給処分を受けると、定期昇給、特別昇給、昇格の点でも不利益を受けることが認められる。しかし、一方、本件座り込み闘争の態様は、通行人の非常に多い幹線道路に面した広島中央局庁舎正面の利用者出入口脇のお客様周知用掲示板前の構内で、郵便局の執務時間中の午前九時頃から午後五時四〇分頃までにわたって、横断幕や全逓旗を掲出した上、二五名ないし六〇名の組合員が交替しながら集団で座り込み、原告らが座り込み参加者に対面して立ち、節目節目で携帯マイクを使用してあいさつをしたり、参加者がシュプレヒコールを行ったというものである。また、前記三の7認定のとおり、本件座り込み闘争は、労働組合の上部組織の統制に反して行われたものであり、広島支部以外に座り込み闘争を実施した組織はなかったことからすると、全逓内部においてもかかる闘争の必要性と相当性につき疑問視されていたことが窺われる。以上の各事実のほか、原告らの本件座り込み闘争における指導的役割、処分歴、組合における地位その他本件に現れた諸般の事情を総合考慮すると、原告伊達を減給三月俸給の月額の一〇分の一、その余の原告らを減給一月俸給の月額の一〇分の一に処した本件処分をもって社会観念上著しく妥当を欠くものとまではいえず、本件処分が懲戒権者である被告に任された裁量権の範囲を超えこれを濫用して行ったものであって、重過ぎるものと認めるのは困難である。

原告らは、反マル生闘争時に行われた構内座り込み闘争については、何ら処分が行われていないのであって、本件処分は、懲戒権の濫用であると主張するので検討するに、(証拠略)の結果により真正に成立したものと認められる(証拠略)によると、全逓が行った反マル生闘争時において、広島中央支部が当時の広島中央郵便局(現広島東郵便局)の公衆出入口横の構内で、昭和五三年一二月二一日から翌五四年一月二〇日まで休日を除き連日にわたって午後一二時三〇分から二〇分間、同年二月から三月上旬にかけて毎週土曜日に同様二〇分間座り込み闘争を実施したこと、また、全逓広島西支部宇品分会が昭和五三年一二月一九日に宇品郵便局の公衆出入口横の構内で座り込み闘争を、全逓広島貯金支部が同年一二月二五日座り込み闘争を実施したこと、右座り込み闘争自体については、処分がなされていないことが認められる。しかし、右座り込み闘争と本件座り込み闘争とでは、その背景、原因、動機、態様等懲戒権者が懲戒処分をするかどうか、いかなる処分を選択するかを判断するに当たって考慮する事情に当然差異があるのであって、両者を単純に比較して処分の軽重を論ずるのは相当でなく、右座り込み闘争に対し処分がなされなかった点を加味して考慮しても、本件処分が懲戒権を濫用したものとは認められない旨の前記判断を覆すに足りないものというべきである。

よって、本件処分が懲戒権の濫用であるとする原告らの主張は、理由がなく採用することができない。

五  以上のとおりであって、被告のした本件処分は、適法であり、原告らの請求は、いずれも理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高升五十雄 裁判官 畑山靖 裁判官青柳勤は、転補につき署名押印できない。裁判長裁判官 高升五十雄)

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